【二口堅治】貴方の『頑張れ』【小説】

ハイキュー!! 小説 二口堅治
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最高ランク : 95 , 更新: 2015/05/30 9:46:06

*





綺麗だな、と心から思う。



「何浸ってるんですか」



一つにまとめた眺めの黒髪も。



よく通る声も。



俺を射止めて放さない目も。



「……にろじゃん。部活行ったんじゃないのかよ」



全部、全部。綺麗だと思う。





*





彼女に初めて『にろ』と呼ばれたのは、1年の時だ。



「現代文を担当する、新橋だ。以後よろしく」



綺麗な人。クラスの女子の誰かがそう呟いた。



教壇に立ち、黒板に自らの名を記した先生。国語教師らしい整った読み易い字。



「1人ひとり名前呼んでくから、返事しろ~」



先生の言葉を聞いて、俺は小さく溜め息を吐いた。



毎回、最初の授業で行われるこのイベント(という程大それたものではないけれど)が、俺は嫌いだ。『二口』と書いて『ふたくち』と読む俺の名字は、一発で当てられたことがほとんどない。



……それは、あの人も同じだった。



「ん? なんだコレ? にろ?」



「『ふたくち』ッス」



「へ~。これ、そんな読み方するんだ」



手元にある名簿から顔を上げ、先生が俺と視線を交える。それからニッと笑って、彼女は告げた。



「んじゃ、お前は『にろ』な。次、本間~」



「……え?」



あまりにもサラッと流されたせいで、一瞬、空耳かとさえ思ってしまった。



「いいな二口。特別っぽいじゃん」



だけど、隣の席の奴にそう言われ、それが空耳なんかじゃなかったのだと知って。



『にろ』



俺をそう呼ぶ声がリフレインして、酷く胸が高鳴ったのを覚えている。





*





「部活は1時間後からです」



今日は1学期最後の日。明日から夏休みだ。



「……そっか」



先生は教卓に軽く体を預け、目の前の黒板を眺める。今朝、クラスメイト(主に女子)が飾り付けた黒板。



真ん中には大きく、先生へのメッセージが書かれている。



「にろ」



黒板から俺に視線を移した先生の手の中で。窓から入ってきた風に、花束を包装しているビニールが小さく音を立てた。





*





頑張れ。



それは時に、人を苦しめる言葉になる。



ただ……先生が口にする『頑張れ』は、いつだって俺に力をくれた。



『春高お疲れ様。次も頑張れ』



『にろ、主将になったんだって? 茂庭から聞いた。頑張れよ』



俺の努力を認めてくれた上で、彼女が掛けてくれる『頑張れ』は、優しく。そして力強く。俺の背中を押した。





*





今年、彼女は俺のクラスの担任になった。



「私、このクラスを持ててよかったよ」



黒板の文字が、全てを物語っている。





『先生、結婚おめでとう!』





「俺も……貴方に持ってもらえて、よかったです」



左手の薬指にはめられた指輪。1番にそれに気付いたのは、多分俺だろう。



「先生」



それくらい、俺は先生のことを見ていた。



叶わない、なんて。そんなことは知ってた。それでも、俺は……



「ご結婚、おめでとうございます」



出来るだけ、いつもの笑顔で。俺は先生に言う。



「ありがと」



今日で最後か。ポツリ、先生が呟いた。



そう。最後、だ。



先生は結婚を機に東京に行くらしい。きっともう……俺達が会うことはないのだろう。



「先生を選ぶだなんて、物好きな人ですね」



「お前、最後まで嫌味か」



ははっ、と先生が笑う。



「ちゃんと先生を幸せにしてくれる人ですか?」



「父親か。……それは分かんないけど、素敵な人だよ」



先生が見せたのは、今までに見たことのない……酷く愛おしそうな、微笑み。



ああ、そうか。



先生は本当に、その人のことが好きなんだ。



「にろ」



先生にこう呼ばれることも、もうないのか。



それを実感するとなんだか目の奥が熱くなって……静かに下を向いた。



「2学期入ったら春高だな」



「……はい」



「頑張れよ」



ポン。俯いた俺の頭に、温かい手が乗る。



「……はいっ!」



気を抜いたら涙が流れそうで、俺はギュッと拳を握り締めた。



「じゃあ、またいつか、な」



先生が教室を出ていくのが足音で分かる。



――いつか。



その『いつか』に、もしも貴方が1人だったら、俺が貴方を抱き締めてもいいですか?



……先生の微笑みが頭を過る。



きっと、それはないだろうな。貴方はいつまで経っても、俺のモノにはならない。



「…………悔しーな」



ポトリ。1粒の雫が頬を伝って、床に落ちた。



『頑張れよ』



叶わない、なんて。そんなことは知ってた。それでも、俺は……



『にろ』





俺は、貴方に恋をしていた。





*_*_*_*_*





実はこれ、短編集で既に出している作品です。



先生相手の恋を描くのが好きなんですが、必ず実りません。((





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凜逢


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