Holy Night
虚妄更新:
街ゆく人がみんないつもより少し大きめのシルエットに顔を埋めて、おめかしした木々たちを眺め、時折綺麗とつぶやきながら去っていく切ない季節へ戻ってきた。
戻ってきたというのもおかしいか、それでもたった300日ほど前も同じような雰囲気に包まれていたのだから、ある意味間違いではないとも思える。
真冬の夜に幸せそうな人を眺めてそんなどうにもならないことを考えてる人も中々いないだろう。捻くれた考えを振り払おうとした時、「お待たせ」そう可愛らしい声が自分の少しだけ伸びてしまった、耳にかかった髪を掠めた。
世はあまりに残酷だ。
1週間もしないうちにまた違う神様に幸せを祈りにいくのに、まるで師走の忙殺すらも忘れてしまったかのように人々は飾り付けされた光を一大イベントとして楽しんで眺めている。
そしてどこも皆楽しそうに。
幼い頃ずっと楽しみにしていた夜。
今はただ過ぎていくのを待つだけなのに、あの時の気持ちが彷彿としてしまうのは誰もが経験するのだろう。
そんな気持ちに蓋をする様にコンビニで買った缶チューハイを音を鳴らして開ける。
テレビを点けてもタレントがここぞとばかりに赤色のコスチュームを見に纏っているし、冬におすすめのスポットなどと謳い、光輝く何処かでみたような公園を映し出す。
今日も袴を身につけて「明けましておめでとう」など、未だ来てない新年に感謝を、カメラ越しに感謝を述べてきた。
「元気?今日はクリスマスだね🎅」
「小さい頃は家族みんなでチキンを食べたよね🍗」
唯一送られてきたメッセージに「元気だよ、そうだね」とだけ返信をした。明日もきっと誰も知らない未来にカメラを通じて偽りのような言葉を発するんだろうか。
世の中は残酷だ。
(解説)
幼い頃に感じていた月日の流れと、現在の月日の流れの速さを表現しています。仕事に追われてるのか恋人もいない主人公、文中ではどことなく地味感があると思いますが、タレントの衣装やカメラというワードから芸能人であることが読み取れます。つまり、「未来にカメラを通じて」というのはテレビ収録、クリスマスなど関係なく新年に向けた仕事をしてきたと分かります。恋人がいないのも納得がいきますね。
そして、中盤と最後に2度出てきた「世の中は残酷だ」という言葉は、「自分だってクリスマスを楽しみたい」という主人公の気持ちが隠れていて、それに気づいているであろう母親がメッセージで思い出語りをしています。離れてていても気遣いあう家族の温かさですね。
クリスマスを楽しむ都会の雑踏の中で、たくさんの人がどう思えど同時に迎えてる聖なる夜の一部を表現したくて、タイトルをHoly Nightと名付けさせていただきました。皆さまの幸せを心から願っております。
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